今回は、山陰旅行の2日目に訪問した足立美術館について紹介します。

今回の旅行の最大の目的地はここ、島根県安来市にある足立美術館でした。もうかなり以前から、美しい庭園と近代日本画のコレクションを有する美術館ということで憧れの存在でした。今年の春、ある方から是非、この美術館を訪れた方が良いですよと強くアドバイスされたこともきっかけとなって今回、十数年来の念願かなっての訪問となりました。

足立美術館

今回の旅行では、4日間のうち3日は雨が降ったり止んだりという天候だったのですが、美術館を訪れた日だけ唯一、一日中、晴天が続いたことは本当に幸運でした。JR安来駅からシャトルバスに乗って20分弱、足立美術館に到着しました。時刻はお昼過ぎの13時半頃でした。当日の夜の宿泊は、美術館のすぐそば(歩いて30秒ほどの場所)にある温泉旅館、さぎの湯荘を予約していたので、旅の荷物を宿に預けて身軽になってから、美術館に向かいました。

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まだ美術館に入る前から、玄関の脇に綺麗な庭が広がり、いやがおうにも気分が高まってきました。ここは歓迎の庭といいます。

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玄関ロビーを通り入場ゲートをくぐると正面に大きな窓があり、早速、広大な庭園の一部が見えてきました。この時点でかなりの感動ものでしたので、これから先はもっと凄いのだろうな…と思っていた矢先、後ろの方から団体ツアーの方々が次から次と押し寄せ、カメラのポジションを探すのが大変なぐらいの人混みになりました。確かに、さきほど乗ってきたシャトルバスが停車した美術館の駐車場がかなり広く、観光バスも十台近く停まっていたので、人気のある美術館なのだな…とは思っていたのですが、平日なのにこれほどの大混雑になるとは、全くのところ想像もしていませんでした。その後も、人が途切れることはありませんでした。

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それでも私にとっては念願の訪問ですから、どうにかこうにか混雑の合間をぬって庭園を鑑賞しました。噂に聞いていた通り、庭園は素晴らしいの一言に尽きます。“一分(いちぶ)の隙も無い”とはまさにこの事です。

廊下を通っていくと、左手に茶室につながる庭(露地)が見えてきます。その奥にある茶室「寿立庵」は、京都の桂離宮の茶室を参考に造られたそうです(今回は残念ながら中には入りませんでした)。

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廊下の右手に目をやると、今度は落ち着いた雰囲気の苔庭が広がっています。メインとなる広大な枯山水庭につながる側庭で、簡素で美しい庭です。写真を見てもわかるかと思いますが、庭に植えられている樹木が全て斜めになっています。これは、山の斜面で生まれ育った樹を、平地に持ってきて真っ直ぐに植えると、樹にとっては苦痛となるはずなのであえて斜めのままにした方が良い、という庭師の方の哲学が反映されているそうです。

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廊下を先に進むと、苔庭のすぐ側に近づける屋外スペースがあり、そこに足立美術館の創設者、足立全康さんの銅像があります。右手を上げて指を差し、あたかも美術館を訪れた客人を案内しているかのような像でした。その印象通り、この像の名は「案内する足立翁」なのだそうで、像の作者は北村西望とのこと。さすが全康さん、著名な彫刻家に自分の銅像の製作を依頼するとは、やはり格が違います。

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北村西望は、日本を代表する彫刻家の大御所で、長崎市の平和記念像が代表作として有名ですね。長崎を旅行した際に平和像を観たことがありますが、数年前、何の予備知識もないまま吉祥寺の井の頭公園を散策中、園内に北村西望記念館がありフラっと入ってみると、長崎の平和記念像と同一サイズの巨大な像があって、度胆を抜かれた記憶があります。

(話しを戻して)そしていよいよ、足立美術館の主庭である枯山水庭が見えてきました。遙か遠くの山々を借景としていて、これほど空間的な広がりを感じられる庭園というのは、私にとっては初めての体験です。庭の中央にある岩々が山を表し、そこから流れ出た水が大河となって広がる様を、手前の白砂が表現しているそうです。

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この主庭を一番正面からじっくり眺められる所が、喫茶スペースになっています。こちらの店内は不思議なくらい空いていたので、窓側のソファアに座ってコーヒーを飲みながらゆっくり庭を鑑賞しました。何をするわけでもなく、30分程くつろいでいました。

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因みに、ここで頂いたコーヒー、添えられた竹炭の棒でコーヒーをかき混ぜると、味がまろやかになるとのこと。早速、試して飲んでみたら、信じられないほど口当たりの優しい味になっていて驚きました。コーヒーはお替り自由なのも嬉しかったです。

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一服し終わってさらに廊下を進んでいくと、美術館内の名物スポット、生の額絵の前にたどり着きました。窓枠を「額縁」に、その奥に広がる庭園を「絵」に見立てた仕掛けです。窓のすぐ外に配置された樹木が、良いアクセントになっていて、まさに琳派の絵のごとき風景を目にすることができます。自分が絵の中の世界に踏み込んだ気分にさせてくれます。

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先に進むと、屋外に出られるスペースがあり、そこからは、庭園の奥にある小高い山の上から流れ落ちる滝を、真正面に眺めることができます。亀鶴の滝という縁起の良い名前だそうですが、館内の解説を読んでビックリ、滝は人工的に造られたものだそうです。館内に入ってから、滝の姿はチラチラと見えていたのですが、あまりに周囲の自然に調和していたので、人の手で造られたモノとは、にわかには信じられませんでした。

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さらに歩を進めると、主庭とは反対側の屋外にある池庭に出ます。この池の辺りは美術館が開園する以前、足立全康さんの邸宅の庭だったとのこと。池の中では沢山の鯉たちが悠然と泳いでいました。かつて全康さんも天気の良い日、庭を眺めながら鯉たちにエサをあげていたのでしょう、きっと…。

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庭園沿いの廊下をさらに進むと、最後に待ち構えているのは白砂青松庭です。ここは、横山大観の名作「白砂青松」をモチーフに造られた庭だそうです。普通、自然の風景をもとに絵を描く訳ですが、この庭は逆で、大観の作品をもとに自然の風景を造りこんだとのことで、全康さんの発想の凄さに感嘆しました。

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庭園鑑賞はここまでです。ここから先は、本館内の企画展示室に入っていきます。私が訪問した時には「榊原紫峰とその仲間たち」展が開催されていました。

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今回、開催中の展覧会情報については、ほとんど事前に予習してきませんでした。榊原紫峰の略歴や作品の特徴についても、恥ずかしながらこれまで全く知識がありませんでした。紫峰は、先日山種美術館で鑑賞した竹内栖鳳の弟子筋に当たる京都画壇の画家で、生涯、花鳥画を描き続けた人物だそうです。作品を鑑賞した印象としては、栖鳳などよりも、写実の緻密さなどで西洋画の影響を感じさせる作品が多く、その後、時代を経るに従って、より精神性を重んじる画風に転向していった点が特徴と言えます。改めて榊原紫峰という画家を知ることができて、良い機会となりました。

作品それ自体にもまして、広い展示場に50点近く展示されていた作品の全てが足立美術館所蔵という点に驚きました。これは一般的な展覧会の常識では考えられないことです…。

紫峰の大展示室を見終えると、今度は横山大観の特別展示室があります。何といっても足立美術館の目玉は、美しい日本庭園と、日本一と言われる横山大観のコレクションですので…。大観コレクションは年4回、展示替えをするそうなのですが、今回はタイミングよく、所蔵品の中でも最高・最大の大作と言われる「紅葉」を鑑賞することが出来ました。今の時期にぴったりの作品と言えます。縦1.6m、横3.6mの屏風絵で、コバルトブルーの流水の上に、真紅の紅葉(もみじ)と白い漣(さざなみ)が配された、秋の自然の景色を美しく、かつダイナミックに描いた作品です。さらに、漣の白銀色の部分には、プラチナが散りばめられているそうです。

言うまでもなく、横山大観は近代日本画の大家ですので、これまでに何度となく展覧会で、作品を鑑賞する機会がありました。上野不忍池の近く、大観の旧宅にある「横山大観記念館」にも足を運び、「霊峰飛鶴」など大観の代表作を鑑賞しましたが、これほどの超大作に出会ったのは今回が初めてです。繊細な自然の風景を巨大なスケールで描き切ってしまう大観の技量に、圧倒されっぱなしの状態でした。

大観の展示室の後にも、北大路魯山人展示室、河井寛次郎展示室があり、さらに本館から地下通路を通じた所にある新館では「院展」の出品作品が展示されていたのですが、あまりの作品の多さに最後は駆け足気味での鑑賞となってしましました。庭園をじっくり鑑賞し、展示作品をくまなく観るには、ほぼ1日、館内で過ごすくらいの気持ちでないといけません。何年先になるかは分かりませんが、次回訪れる際にはその心づもりで美術館に足を運びたいと思います。

足立美術館……
安来の山間部の長閑な温泉町に出現した日本美術の殿堂。
足立全康という稀代の美術品コレクターが造り上げた理想郷(シャングリラ)。

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私の人生の中でも一、二を争うほど、強烈な印象が残った美術館でした。
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