今回の山陰旅行ですが、当初全く予定していなかった場所を見に行くことになりました。これも旅の楽しみの一つです。

話しは旅行前にさかのぼります。旅行初日に宿泊する米子市内から、バスに乗って20分程の所に、山陰地方でも有数の温泉街、皆生(かいけ)温泉があります。温泉街にある観光ホテルの大半で立ち寄り湯ができるとのことで、さて、旅行当日はどこのホテルの温泉に入ろうかな…と、事前にネットで色々探していたところ、あるホテルが目に止まりました。そこは以前、日本の近代建築の本(日本におけるDOCOMOMO150選)に掲載されていた建物だ、とすぐに気付きました。

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日本におけるDOCOMOMO150選(wikipedia)

およそ観光地のホテルには似つかわしくない独特な形状で、いつか機会があれば是非訪ねてみたいな…と感じた建物でした。そのホテルは東光園といい、調べてみると設計者は菊竹清訓(きくたけきよのり)でした。菊竹さんの名前と、少し前に他界された事だけは知っていたものの、彼の代表作については記憶が曖昧だったので、温泉のことは横に置いておいて、改めてその事績を色々と調べてみると、誰もが知っている建築物を数多く残していることが分かりました。

菊竹清訓(wikipedia)
菊竹清訓建築設計事務所

「建築及び都市は、新陳代謝を通じて成長する有機体でなければならない」と説いて、建築運動“メタボリズム”を牽引した建築家、それが菊竹さんです。

大阪万博のエキスポタワー、沖縄海洋博のアクアポリスなどは、一定以上の年代の人であれば、昭和の懐かしい記憶が蘇ってくる、そんな思い出深い建築物でしょう。また、両国の江戸東京博物館、(かつて上野不忍池の近くにあって景観問題を招いた)ホテルソフィテル東京などは、東京に住む人だったら一度は見たことのある建物かと思います。特に、独特な形状をもつ江戸博は、国技館の真横に建っているので、今でも大相撲中継の時にはよくテレビの画面に映し出されますよね。

かなり意外だったのは、かつて静岡の三島市に住んでいたときに何度も訪れたことのあるベルナール・ビュフェ美術館が、菊竹さんの設計だったとは…知りませんでした。

色々と調べてみると、私が旅行で訪れる予定の米子・松江・出雲に、まるで見計らったかのように彼の作品が点在していることが分かったので、せっかくの機会なので今回、旅行中に5つの建築作品を実際に見て来ました。以下、旅行の行程順に紹介したいと思います。

東光園(1965年作)

東光園

旅行初日の夕方、米子駅からバスで皆生温泉へ、温泉街をしばらく歩いて何とか日が沈む少し前に東光園に到着しました。以前見た、建築関連の書籍に掲載されていた写真の通り、幾つものパーツを複雑に積み上げて造り上げたようなホテルの外観は、周囲の建物とは明らかに異なり、独特な存在感を放っていました。巨大な梁で上層階を吊るという、特殊な工法が用いられているそうです。建物の上部に付けられた屋根は、出雲大社をイメージしているとのこと。彼の構想したメタボリズムの特徴(細胞が新陳代謝するかのように、建物を大きな塊ではなく部分部分のユニットで構成し、取り換え可能な仕組みとする考え)が、端的に表現された作品だと感じました。このホテル、ほぼ半世紀前の作品ですので、完成当時の衝撃度は相当なものだったかと思います。

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館内を散策しているとホテルの模型が展示されていました。これを見れば建物の屋上の様子や各階の細部も確認できます。

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この建物の真正面に庭園が広がり、その中になんと露天風呂があります(スウェットを着用して入ります)。お風呂から出た頃には、もうすっかり日も暮れて、ライトアップされたホテルの様子が印象的でした。

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島根県立美術館(1999年作)

島根県立美術館

旅行3日目に訪れた松江市、今回で三度目の訪問となります。こちらは宍道湖のほとりに立つ美術館で、以前に一度、来館したことがあります。私が訪ねた各地の美術館の中でも、ロケーションの素晴らしさでは群を抜いています。今回はあいにく休館日、しかも天気も雨だったので、宍道湖に沈む夕日を眺めることはできませんでした、残念…。

菊竹さんの作品の中でも、晩年に近い作品の1つで、それまでの作品とはかなり趣が異なる印象があります。建物が大きすぎて写真ではなかなか分かりにくいのですが、屋根のカーブや円形状の空洞など、建物自体が何か有機生命を彷彿とさせるような、とても柔らかい印象を覚えました。同じ頃の作品を見てみると、千代田区九段会館近くの「昭和館」といい、福岡太宰府の「九州国立博物館」といい、どれも共通して曲線的な特徴を有しているようです。興味深い作風の変遷です。

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田部美術館(1979年作)

田部美術館

松江城の近く、お堀の北にある塩見縄手沿いに建つ美術館です。近くにある小泉八雲旧居や記念館は何度も訪れたのですが、こちらの美術館は初めての訪問です。通り沿いの伝統的な長屋門をくぐると、中は一変して、錆色のスレートの大屋根の下に窓を広く取った、白壁の建物が見えてきます。
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館内に入ると、休憩スペースを備えた大空間のロビーが広がり、前庭の日本庭園の緑をゆっくりと鑑賞することができます。直線的で緩やかなスロープを上がって、2階の展示室から所蔵品の陶磁器・工芸品を鑑賞していく導線となっています。こちらの建物は松江城のすぐそば、伝統的な美観地区に建っている美術館ということもあり、あまり奇をてらった意匠ではなく、展示作品の雰囲気に合った落ち着きのある建物、という印象を受けました。

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出雲大社宝物館<神枯殿>(1981年作)

旅行最終日に訪れた出雲大社。御仮殿の右手に、宝物館の神枯殿があります。外観の特徴としては、やはり屋根の形状でしょうか。一見すると平屋建てに見えますが、玄関正面に受付があり、右脇から入って緩やかなスロープを上り、2Fの展示室で宝物を鑑賞する造りとなっています。この館内の導線は、田部美術館のそれと似た感じですが、出雲大社の由緒ある宝物を展示する施設ということもあってか、開放感はほとんどなく神社施設特有の重厚な印象の建物でした。

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出雲大社庁の舎(1963年作)

こちらの建物は御仮殿の左手、ちょうど宝物館と正面を向きあうような位置に立っています。社務所に当たる建物です。私が出雲大社に初めて参拝したのは約20年前、社会人1年目の時です。出雲大社のような格式ある大神社に、なぜこんなヘンテコな形をしたコンクリートの建物が立っているのだろう?と、物凄い違和感をおぼえた記憶が、今でも鮮明に残っています。私にとっては、その当時からかなり印象深かった存在だった訳ですが、この作品こそが菊竹さんの初期の代表作、日本建築学会賞作品賞、日本におけるDOCOMOMO150選にも選ばれている著名な作品だったのです。

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建物の中をチラッとのぞいてみると、御祈祷を受ける人たちの待合室があり、思った以上に明るい大空間が広がっていました。

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ネットで調べていたところ、この庁の舎の建設の経緯と、それに関わった方々(菊竹さん本人も)のコメントが紹介されているサイトがありました(専門的な話題もかなり含まれていますが)。建築作品の一つ一つに歴史ありです。

出雲大社庁の舎(Ace建設業界)

今回の菊竹さんの建築物を巡ったことで、改めて他の作品も見てみたくなりました。できれば次は九州国立博物館かな…と、今後の旅行先に思いを巡らすのは楽しいものです。
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