(前回の続き)
1階の見学を終えて2階に上ると、小部屋が幾つかあります。かつては使用人が住んでいたそう、現在はブライダル時の新郎・新婦の控え室として利用されています。部屋の片隅に置かれた中国・清朝風のド派手な調度品に、思わず目を奪われました。



2階の中央を貫く廊下の先には、開放感たっぷりの屋上が広がっています。屋上の一部には芝生や小さな花畑があり、まさに「空中庭園」といった趣です。屋上にある藤棚はパラーゴと呼ばれるもので、設計図や竣工当時の写真を元に復元されたものだそうです。



屋上から見下ろした庭園の眺め、そしてエメラルドグリーンのスペイン瓦の屋根です。


屋上の床面に敷き詰められた独特なデザインのタイルは、竣工当時のものをそのまま使用しているそうです。

スペイン建築の特徴のひとつであるパティオ(中庭)が邸内の中央部にあります。階段を通じて屋上と地上がつながっており、上下を自由に行き来できる導線となっています。日差しが豊かな南国スペインならではの建築様式ですね。





そのパティオの奥には、岩場の水に手を浸す女性像があります。この像は当主(小笠原長幹)本人が製作したそうです。長幹は芸術に対する造詣が深く、彫刻家の朝倉文夫に師事していた経歴を持つそうです。
朝倉文夫…私の通っていた大学の構内に朝倉の作品がありました。それに台東区谷中にある朝倉彫塑館、東京の実家からそう遠くない場所にあったので、何度も足を運んだ馴染みの場所でもあります。小笠原伯爵邸は「小鳥の館」ですが、朝倉の邸宅はまさに「猫の館」でした。

パティオの一画、階段下にある扉にも、女性のレリーフがはめ込まれています。こちらは、かつて撮影された写真を元に、イタリアで復元製作された作品だそうです。

パティオから再び邸内に入り、まだ撮影していない見所があることを思い出しました。長年にわたり破損を免れて残った照明器具です。小笠原家の家紋「三階菱」の文様がデザインされており、邸内で三階菱の家紋が残っているのは唯一、このランプだけだそうです。しかし、このランプが何処にあるのか場所が分からず、結局、館内の女性スタッフに尋ねたところ、「見学者は立ち入り禁止の物置部屋にあります」と告げられました。
ガ~ン。「そうなんですか、残念です…」と肩を落とした私の姿を見て、何とその女性スタッフが、私のデジカメを持って物置部屋に入り、私に代わって写真を撮ってきてくれたのです!こんな対応をしてくれるとは、涙が出るくらいに感激しました…。伯爵邸の見学者の中でも多分、このランプを撮影した人はほとんどいないはずです。

邸内をひと通り見学し終えたあと、今度は建物の外観と庭園の様子を見るため屋外に出ました。
玄関を出るとすぐ、何やら猿をモチーフにした石版があるのに気づきました。烏帽子(えぼし)を被り、御幣(ごへい)を持った姿です。以前の記事にも書いた通り、私自身、申年生まれということもあって、動物の中でも特にお猿さんが大好きなのですが、鳥好きな小笠原伯爵が何故、猿をモチーフにした像を壁面に嵌め込んだのか、見当がつきませんでした。
しかし、先ほど館内の受付でもらったパンフレットの説明を読んで納得…。これは鬼門除けの石版なのだそうです。石版がある場所が、ちょうど邸宅の北東の角、いわゆる「鬼門」に位置しており、日吉大社の眷族(けんぞく:神様の使いの動物)である猿の像が配置されているとのこと。日吉大社(山王社)のある比叡山は、平安京の北東(鬼門)に位置し、都に降りかかる災厄を防ぐ役割を担っていたことから、山王社の使いである猿が鬼門封じの象徴として用いられた、という訳ですね。
「神社検定」で勉強した知識が活かされました…。

邸宅の横道を進んで歩いて行くと、その奥に庭園が広がっています。手入れが行き届いた綺麗なお庭です。水は出ていませんでしたが庭園の中央にある噴水、こちらにも鳥の姿が施されていて、台座の部分には優雅な白鳥の姿も見られます。




庭園の一画には、鶏をモチーフにした大きな窯が置いてあります。こちらは新しく造られた物だそうで、建物の修復時、かつて地下にあったボイラーの鉄釜を再利用して製作されたとのこと。本当に鳥づくしの館です。

庭園側から眺めた邸宅の外観です。何と言っても、シガールームの半円形の外壁部分に施された装飾の素晴らしさに圧倒されます。古磁器の色使いにおいて日本の第一人者と言われる、小森忍の作品だそうです。
中央に太陽が輝き、花々が散りばめられた構図で、「生命の賛歌」がモチーフだそうです。改修以前、1600のパーツの殆どが剥がれ落ちていたものの、当時の色タイルの発色を一枚一枚確認しながら焼き上げ、往時の姿に戻したとのこと。あまりの素晴らしさに、夢中で写真を撮り続けました。




そのシガールームの外壁の一部に、定礎版がはめ込まれています。古代ギリシアの建築現場の風景を彷彿とさせるような、とても洒落たデザインです。
陶板製の定礎版で、板面には「Sone&Chujo,ARCHITECTS.1926.A.D. 」とあり、曽禰中條建築事務所の設計であることが示されています。自分の建築作品に自分の名を入れることを殆どしなかったという彼らが、このような立派な定礎板を造り、最も目立つシガールームの外壁にはめ込んだのには、それだけ強い思いがこの邸宅の設計に込められていたのでしょう。定礎版それ自体が、ひとつの芸術作品です。


以上が小笠原伯爵邸の見学の様子です。私自身、これまでかなり多くの近代建築・西洋館を見学してきましたが、今回は久しぶりに興奮しました。スパニッシュ様式という独特の建築様式もさることながら、一時は取り壊しの危機に瀕した建物を、多額の改修費用を負担して往時の姿に復元した、現在邸内でレストランを運営している民間企業の熱意と本気ぶりに心底感服しました。
建物も一流なら、お食事も一流。今度はぜひ妻を連れて、この美しい洋館でディナーを堪能してみたい…。
そんな思いを抱きつつ、家路につきました。
1階の見学を終えて2階に上ると、小部屋が幾つかあります。かつては使用人が住んでいたそう、現在はブライダル時の新郎・新婦の控え室として利用されています。部屋の片隅に置かれた中国・清朝風のド派手な調度品に、思わず目を奪われました。



2階の中央を貫く廊下の先には、開放感たっぷりの屋上が広がっています。屋上の一部には芝生や小さな花畑があり、まさに「空中庭園」といった趣です。屋上にある藤棚はパラーゴと呼ばれるもので、設計図や竣工当時の写真を元に復元されたものだそうです。



屋上から見下ろした庭園の眺め、そしてエメラルドグリーンのスペイン瓦の屋根です。


屋上の床面に敷き詰められた独特なデザインのタイルは、竣工当時のものをそのまま使用しているそうです。

スペイン建築の特徴のひとつであるパティオ(中庭)が邸内の中央部にあります。階段を通じて屋上と地上がつながっており、上下を自由に行き来できる導線となっています。日差しが豊かな南国スペインならではの建築様式ですね。





そのパティオの奥には、岩場の水に手を浸す女性像があります。この像は当主(小笠原長幹)本人が製作したそうです。長幹は芸術に対する造詣が深く、彫刻家の朝倉文夫に師事していた経歴を持つそうです。
朝倉文夫…私の通っていた大学の構内に朝倉の作品がありました。それに台東区谷中にある朝倉彫塑館、東京の実家からそう遠くない場所にあったので、何度も足を運んだ馴染みの場所でもあります。小笠原伯爵邸は「小鳥の館」ですが、朝倉の邸宅はまさに「猫の館」でした。

パティオの一画、階段下にある扉にも、女性のレリーフがはめ込まれています。こちらは、かつて撮影された写真を元に、イタリアで復元製作された作品だそうです。

パティオから再び邸内に入り、まだ撮影していない見所があることを思い出しました。長年にわたり破損を免れて残った照明器具です。小笠原家の家紋「三階菱」の文様がデザインされており、邸内で三階菱の家紋が残っているのは唯一、このランプだけだそうです。しかし、このランプが何処にあるのか場所が分からず、結局、館内の女性スタッフに尋ねたところ、「見学者は立ち入り禁止の物置部屋にあります」と告げられました。
ガ~ン。「そうなんですか、残念です…」と肩を落とした私の姿を見て、何とその女性スタッフが、私のデジカメを持って物置部屋に入り、私に代わって写真を撮ってきてくれたのです!こんな対応をしてくれるとは、涙が出るくらいに感激しました…。伯爵邸の見学者の中でも多分、このランプを撮影した人はほとんどいないはずです。

邸内をひと通り見学し終えたあと、今度は建物の外観と庭園の様子を見るため屋外に出ました。
玄関を出るとすぐ、何やら猿をモチーフにした石版があるのに気づきました。烏帽子(えぼし)を被り、御幣(ごへい)を持った姿です。以前の記事にも書いた通り、私自身、申年生まれということもあって、動物の中でも特にお猿さんが大好きなのですが、鳥好きな小笠原伯爵が何故、猿をモチーフにした像を壁面に嵌め込んだのか、見当がつきませんでした。
しかし、先ほど館内の受付でもらったパンフレットの説明を読んで納得…。これは鬼門除けの石版なのだそうです。石版がある場所が、ちょうど邸宅の北東の角、いわゆる「鬼門」に位置しており、日吉大社の眷族(けんぞく:神様の使いの動物)である猿の像が配置されているとのこと。日吉大社(山王社)のある比叡山は、平安京の北東(鬼門)に位置し、都に降りかかる災厄を防ぐ役割を担っていたことから、山王社の使いである猿が鬼門封じの象徴として用いられた、という訳ですね。
「神社検定」で勉強した知識が活かされました…。

邸宅の横道を進んで歩いて行くと、その奥に庭園が広がっています。手入れが行き届いた綺麗なお庭です。水は出ていませんでしたが庭園の中央にある噴水、こちらにも鳥の姿が施されていて、台座の部分には優雅な白鳥の姿も見られます。




庭園の一画には、鶏をモチーフにした大きな窯が置いてあります。こちらは新しく造られた物だそうで、建物の修復時、かつて地下にあったボイラーの鉄釜を再利用して製作されたとのこと。本当に鳥づくしの館です。

庭園側から眺めた邸宅の外観です。何と言っても、シガールームの半円形の外壁部分に施された装飾の素晴らしさに圧倒されます。古磁器の色使いにおいて日本の第一人者と言われる、小森忍の作品だそうです。
中央に太陽が輝き、花々が散りばめられた構図で、「生命の賛歌」がモチーフだそうです。改修以前、1600のパーツの殆どが剥がれ落ちていたものの、当時の色タイルの発色を一枚一枚確認しながら焼き上げ、往時の姿に戻したとのこと。あまりの素晴らしさに、夢中で写真を撮り続けました。




そのシガールームの外壁の一部に、定礎版がはめ込まれています。古代ギリシアの建築現場の風景を彷彿とさせるような、とても洒落たデザインです。
陶板製の定礎版で、板面には「Sone&Chujo,ARCHITECTS.1926.A.D. 」とあり、曽禰中條建築事務所の設計であることが示されています。自分の建築作品に自分の名を入れることを殆どしなかったという彼らが、このような立派な定礎板を造り、最も目立つシガールームの外壁にはめ込んだのには、それだけ強い思いがこの邸宅の設計に込められていたのでしょう。定礎版それ自体が、ひとつの芸術作品です。


以上が小笠原伯爵邸の見学の様子です。私自身、これまでかなり多くの近代建築・西洋館を見学してきましたが、今回は久しぶりに興奮しました。スパニッシュ様式という独特の建築様式もさることながら、一時は取り壊しの危機に瀕した建物を、多額の改修費用を負担して往時の姿に復元した、現在邸内でレストランを運営している民間企業の熱意と本気ぶりに心底感服しました。
建物も一流なら、お食事も一流。今度はぜひ妻を連れて、この美しい洋館でディナーを堪能してみたい…。
そんな思いを抱きつつ、家路につきました。
コメント
すごい!
小笠原伯爵邸なるものがあるなんて、今の今まで知らなかったです。それにしても凝ったつくりで、いや~言葉になりません。壁の模様といい・・・。
あのランプ、きっとサトセイさんの熱心な見学とその探究心が、女性スタップの方に伝わったからこそだと思います。
私もサトセイさんのお写真から貴重なものを拝見できて、思わず声を上げてしまいました。
ありがとうございます。
あのランプ、きっとサトセイさんの熱心な見学とその探究心が、女性スタップの方に伝わったからこそだと思います。
私もサトセイさんのお写真から貴重なものを拝見できて、思わず声を上げてしまいました。
ありがとうございます。
Re: すごい!
> 小笠原伯爵邸なるものがあるなんて、今の今まで知らなかったです。それにしても凝ったつくりで、いや~言葉になりません。壁の模様といい・・・。
>
> あのランプ、きっとサトセイさんの熱心な見学とその探究心が、女性スタップの方に伝わったからこそだと思います。
> 私もサトセイさんのお写真から貴重なものを拝見できて、思わず声を上げてしまいました。
> ありがとうございます。
しずかさん、いつもコメントありがとうございます。私も今回は珍しく、久しぶりに気持ちが高ぶりました。貴重な写真も撮影できて、本当にラッキーでした。先々レストランを利用する機会があれば、今度はグルメレポートをしたいと思います(笑)
>
> あのランプ、きっとサトセイさんの熱心な見学とその探究心が、女性スタップの方に伝わったからこそだと思います。
> 私もサトセイさんのお写真から貴重なものを拝見できて、思わず声を上げてしまいました。
> ありがとうございます。
しずかさん、いつもコメントありがとうございます。私も今回は珍しく、久しぶりに気持ちが高ぶりました。貴重な写真も撮影できて、本当にラッキーでした。先々レストランを利用する機会があれば、今度はグルメレポートをしたいと思います(笑)
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